遺言書を作るベストなタイミングとは?

「そのうち書く」よりも、「書けるうちに、状況が変わる前に」。遺言書の作成時期は年齢ではなく、家族関係や資産、健康状態などの“変化”で考えるのが実務的です。本稿では、一般の方にもイメージしやすい生活の場面を軸に、遺言書を作るベストなタイミングを分かりやすく解説します。読み進めるだけで、今のご自身に必要かどうか、そして何から始めるかが分かる構成にしました。

目次

作りどきは「判断力が十分にある今」そして「大きな変化の前後」

判断能力(意思能力)が十分にあるうちに作るほど、内容を落ち着いて吟味でき、家族とも丁寧に共有できます。さらに、家族構成や資産、仕事、健康に大きな変化が起きる前後は、特に作成の優先度が上がります。変化が起きる前なら備えとして、起きた直後なら現実に合わせて内容を調整する好機になるからです。

生活の「大きな変化」の代表例

以下のような出来事は、遺言の必要性を一気に高めます。どれか一つでも当てはまれば作成を検討し、二つ以上なら早めの着手が安心です。

変化の領域具体例なぜ作りどきか
家族関係結婚・再婚・離婚、孫の誕生、疎遠化法定相続と希望のズレが生じやすく、トラブルの芽を早期に摘める
資産構成自宅や収益不動産の取得・売却、退職金、投資の増減公平感や管理の負担が変わるため、分け方と手順の設計が必要
仕事・事業起業、事業承継、役員就退任、持株・SOの付与後継や借入・保証の扱いを明確化し、事業停止リスクを抑える
健康状態入退院・手術予定、介護開始、持病の進行判断能力低下の前に作れば、方式不備や争いを避けやすい
居住・国際海外移住・長期滞在、海外口座・不動産手続の複雑化に備え、情報と意思を整理しておく必要がある

作りどきを見抜く実務の視点

実務では、「家族」「資産」「手続負担」の三点を軸に検討します。
たとえば再婚や連れ子がいる場合、法定相続の結果がご本人の希望と大きく異なることがあります。
早めに受け取り方を具体化し、付言事項で思いを添えることで、残された方々の心理的負担が軽くなります。
収益不動産や複数口座がある場合は、共有や名義不一致、休眠口座の発見など実務上の詰まりを避ける観点からも、遺言による指示が効果的です。
病気の診断を受けた直後は不安が募りますが、公正証書遺言で落ち着いて作っておけば、体調に左右されず意思を形にできます。

年代・ライフステージ別に見る「書きどき」

年齢そのものより起こりやすい出来事に着目すると、次のように整理できます。まず30〜40代は住宅購入やお子さまの誕生、起業・転職など“イベント”が続く時期です。ここで一度、家族関係と資産の棚卸しを行い、将来の見直しを前提とした簡易版の遺言を作っておくと、次の更新がぐっと楽になります。50代は親世代の相続を経験することが増え、自分事としての実感が高まる時期です。財産の見える化と分け方の原則を文書化しておくと、周囲の理解が得られやすくなります。60代以降は配偶者の生活保障や二次相続の負担軽減が焦点になり、公正証書遺言と保管・共有の体制づくりが現実的な安心につながります。

世代別の要点早見表

世代主な出来事重視したいポイント
30〜40代住宅購入、出産・養子、起業・転職簡易版で良いので初版を作り、更新を前提に設計する
50代親の相続経験、資産の整理財産の見える化と分け方の原則化、執行者の指定検討
60代以降退職、健康変化、二次相続公正証書での確実性、配偶者の居住確保と税・実務負担の軽減

「急いだ方がよい」代表的な場面

再婚・連れ子のあるご家庭、子どものいないご夫婦、事業主や多数の不動産を持つ方、遠方に家族がいる方や海外資産を持つ方、そして病気の診断や手術予定がある方は、遺言を急ぐメリットが大きい層です。いずれも、法定相続の機械的な結果がご本人の意図と離れやすい、または手続きが複雑化して残された方の負担が過度に大きくなるという共通点があります。

急ぐべきケースの要点

状況起こりがちなリスク対応の要点
再婚・連れ子希望と異なる配分、感情的対立具体的な配分指定と付言、遺留分への配慮
子がいない夫婦兄弟姉妹が相続人となる配偶者の生活保障を明確化、居住用の扱いの明示
事業主・不動産多数共有化・事業停止・空き家化承継先・換価手順・管理者の指定、執行者の指名
家族が遠方・海外資産手続の遅延・重複・不備必要書類と窓口を事前明記、連絡経路の確保
病気の診断・手術予定方式不備・作成不能のリスク体調が安定しているうちに公正証書で確実化

先送りのリスクと、よくある誤解

エンディングノートだけで十分だと考える方は少なくありません。
しかし、エンディングノートは思いや希望を伝えるには有用でも、法的な効力は持ちません。
財産の配分や手続を確実に実行するためには、遺言書が必要です。
また、「口頭で伝えたから大丈夫」という安心感も危険です。
遺言は方式が厳格で、要件を満たさない口頭の意思表示は原則として効力を持ちません。
さらに、「一度書けば一生そのまま」という誤解もよく見かけます。むしろ最新の遺言が原則として優先されるため、状況の変化に合わせて作り直すのが健全です。法務局の自筆証書遺言保管制度も便利ですが、あくまで“保管”の仕組みであって、内容の妥当性や争いの予防まで保証するものではありません。内容の検討は別途必要になります。

初めてでも迷わない三つのステップ

最初の一歩は「棚卸し」です。相続人になり得る人、受け取ってほしい人や団体、寄付の希望などを思い浮かべながら、不動産・預貯金・証券・保険・負債・デジタル・海外といった項目ごとに現状をメモします。次に「方針づくり」。誰に何をどのような理由で託すのか、分け方の原則を文章にしておくと、草案が驚くほどスムーズに固まります。最後に「方式の選択と作成」です。自筆、公正、秘密の三方式には長所と注意点がありますので、体調や案件の複雑さ、緊急度に合わせて選びましょう。

遺言方式の比較表

方式向いている場面長所注意点
自筆証書遺言まず形にしたい、費用を抑えたい手軽・迅速、保管制度で紛失を予防方式不備のリスク、内容チェックは自己責任
公正証書遺言体調不安・複雑案件・急いで確実に公証人関与で確実性が高く、証明力に優れる準備資料と日程調整が必要、費用がかかる
秘密証書遺言内容を秘匿しつつ方式の厳格さも確保本文秘匿が可能実務利用は少なめ、運用に工夫が要る

デジタル資産・任意後見という視点

近年はネット銀行や証券、仮想通貨、SNSなど“見えにくい資産やアカウント”が増えています。サービス名とIDの一覧を目次のように残し、パスワードは別管理にするのが安全です。もし判断能力の低下に備えたい場合は、遺言とセットで任意後見契約や財産管理委任契約の検討も有効です。


見直しの目安とタイミング

一度作って終わりではありません。見直しの基本は「3〜5年に一度の定期点検」と「大きな変化が起きたときの随時更新」です。ニュースで相続・贈与・不動産関連のルール改正が話題になったら、その時点の内容で問題がないか専門家に確認すると安心です。

見直しの早見表

タイミング具体例見直しのポイント
定期点検誕生日・年末などの節目受取人・連絡先・資産一覧の更新、方針にブレがないか確認
変化があったとき结婚・不動産売買・事業承継・入院分け方や手順、執行者・連絡体制の再点検
ルール・情勢変化税制改正や制度改正の報道想定外の負担や実務上の詰まりが生じないか専門家に相談


よくある質問(FAQ)

何歳から必要でしょうか?

年齢よりも状況で考えます。30代でも住宅購入や起業、再婚などがあれば、簡易版でも作っておく価値は十分にあります。

一度書いた遺言は変更できますか?

変更できます。一般に最新の内容が有効になりますので、状況が変わったら作り直してください。

エンディングノートと遺言の違いは?

エンディングノートは希望の共有に役立ちますが、法的効果はありません。配分や手続を確実にするのは遺言の役割です。

自筆と公正、どちらがよいでしょう?

案件の複雑さや体調、緊急度で選びます。迷う・急ぐ・複雑なときは、公正証書遺言が無難です。


相談の流れとサポート内容

相談は、状況整理から完成、保管・共有のアドバイスまで一連でサポートできます。初回はヒアリングで、ご家族や資産の全体像と優先順位を把握し、草案の方向性を一緒に決めます。公証役場とのやり取りや当日の立会い、完成後の保管や家族への伝え方まで、実務に沿って並走します。

進行のイメージ(所要の目安)

工程内容所要イメージ
初回ヒアリング現状確認・優先順位の整理30分程度
棚卸し・草案家族関係と資産の可視化、草案作成1〜2週間程度(資料のご準備状況により前後)
方式決定・実行公証役場との調整、当日作成・署名押印予約状況により変動
完成後正本・謄本の保管、家族への共有方法の整備当日〜数日

まとめ

机の前に座り込む必要はありません。まずは直近一年の「家族・資産・健康の変化」を紙に書き出し、「誰に何を、なぜ」を一言でメモしてみてください。そのメモが、遺言の骨格になります。先送りにメリットはありません。変わる前に、そして変わったら、落ち着いて見直せるうちに形にしておきましょう。必要であれば、実務の流れに沿って最後までお手伝いします。

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