個人で不動産ビジネスを始めるとき、最初の壁が「宅建業免許申請」です。申請書そのものは書けても、審査で見られるのは「体制が整っているか」という実態です。実態が整わない状態で進めると、差し戻しや追加提出が続き、開業時期がずれます。このコラムでは、免許の基本、要件、申請の流れ、失敗原因、現実的な対策を整理します。
【目次】
・宅地建物取引業免許とは
・免許申請に必要な条件
・免許申請の流れ
・申請で失敗しやすい原因
・失敗しない免許取得方法
・まとめ
①宅地建物取引業免許とは
宅建業に当たる行為と、免許が必要になる場面
宅建業(宅地建物取引業)とは、法律上つぎの行為を「業として」行うことをいいます。
具体的には、
①宅地・建物の売買または交換
②宅地・建物の売買・交換・賃貸借の代理
③宅地・建物の売買・交換・賃貸借の媒介(仲介)
です。
ここで重要なのは「業として」の部分です。
「業として」とは、営利を目的として、不特定多数の相手に対し、継続的または反復的に行い、社会通念上“事業”と見られる程度の活動を指します。そのため、個人が一度だけ自宅を売る、といった単発の行為は通常「業として」には当たりません。一方で、個人であっても、繰り返し仲介手数料を受け取る形で取引をあっせんする場合は、「業として」の要件を満たしやすく、宅建業に該当する可能性が高くなります。
また、「代理」と「媒介」は意味が異なります。
代理は、依頼者の代わりに契約当事者として動き、契約締結まで行う立場です。
媒介(仲介)は、売主と買主、貸主と借主など当事者間の契約が成立するように、紹介・条件調整・手続案内などを行う立場で、契約の当事者はあくまで依頼者と相手方です。
なお、賃貸に関しては「入居者を見つけて賃貸借契約を成立させる行為(媒介)」は宅建業に当たり得ますが、契約成立後の家賃督促や退去手続などの「管理業務」は、一般に宅建業法上の媒介とは区別されます。
免許なしで宅建業をすると起こること
1) 法律が禁止しているのは「免許なしで宅建業を営むこと」
宅建業法は、国土交通大臣または都道府県知事の免許を受けないで宅建業を営むことを禁止しています。無免許で売買・賃貸の仲介等を「業として」行うと、刑事罰の対象になります。
刑事罰の内容(代表例)
無免許営業(宅建業法12条違反)をした場合、3年以下の拘禁刑(または懲役)もしくは300万円以下の罰金、または併科が予定されています。
※ここでいう「刑事罰」は、監督処分(業務停止等)ではなく、警察・検察の手続につながり得る性質のものです。
2) 取引先・金融機関の信用への影響
無免許営業は、信用面のダメージが大きくなりやすいです。
- 取引相手(売主・買主、貸主・借主)は、仲介者が適法な事業者かを重視します
- 金融機関は、事業の適法性やコンプライアンス体制を重視します
- 取引段階で発覚すると、契約締結や融資実行が止まる可能性があります
このため、免許取得前に「営業を開始した」と見られる状態は、法的リスクと実務リスクが同時に高まります。
②免許申請に必要な条件とは
人的要因(専任の宅地建物取引士)
申請者は、各事務所ごとに「専任の宅地建物取引士」を置く必要があります。人数の基準は「事務所に従事する者5人につき1人以上」が目安です。専任性は、常勤して、その事務所の宅建業務に専従できることが前提です。副業や他社役員の兼務があると、専任性の確認で止まる場合があります。
事務所要因(どんな事務所を準備するか)
宅建業免許における事務所には「独立性」と「継続性」が求められます。
都道府県の審査基準では、固定電話、机・応接設備、事務機器、商号の掲示など、写真で確認する項目が並びます。シェアオフィスや自宅の一室でも、区画の形態によっては不適合になります。申請者は、契約書、平面図、写真の撮り方まで含めて準備する必要があります。
その他の要因(営業保証金か、保証協会か)
宅建業者は、原則として「営業保証金」を供託します。
ただし、保証協会に加入する場合は、営業保証金の代わりに「弁済業務保証金分担金」を納付する方法があります。
金額は主たる事務所60万円、従たる事務所は1か所につき30万円が基本です。
どちらを選ぶかで初期資金と手続が変わるため、申請者は開業計画と合わせて決める必要があります。
③免許申請の流れ
- 免許区分を決める(都道府県知事免許か、大臣免許か)
- 事務所・専任宅建士・代表者等の体制を整える
- 添付書類を収集する(身分証明、登記事項、納税、略歴、事務所写真など)
- 申請書を作成し、窓口に提出する
- 補正(差し戻し・追加提出)に対応する
- 免許通知後に営業保証金の供託または保証協会加入を進め、営業開始へ
提出先や提出方法は、国土交通省と各都道府県が案内しています。
大臣免許の提出先が見直された地域もあるため、申請者は必ず最新の窓口案内を確認してください。
④申請における失敗の原因
申請が止まりやすい原因は、「申請書の書き方」よりも、行政庁が確認したい実態(体制・場所・人)が書類と写真で十分に説明できていない点にあります。
【原因①】専任宅建士の常勤性・専任性が確認できない
行政庁は「専任の宅地建物取引士(専任宅建士)」について、次の2点を重視します。
- 常勤性(その事務所で日常的に勤務していること)
- 専従性(その事務所の宅建業務に専ら従事できる状態であること)
【常勤性とは】
国土交通省の「解釈・運用の考え方」では、専任宅建士の「専任」は、原則として事務所に常勤(宅建業者の通常の勤務時間を勤務すること)し、宅建業務に従事する状態、と整理されています。
自治体の手引でも、常勤性は「事務所等の業務時間に従事すること」が基本、という説明が一般的です。
★常勤性におけるリモートワークの取り扱い
常勤性において「リモートワークは常勤性における勤務として認められるか」について問い合わせがあります。
国交省の解釈では、専任の定義の中に、ITの活用等により適切な業務ができる体制を確保した上で、事務所以外で通常の勤務時間を勤務する場合を含む、という記載があり、リモートワークは全面否定ではありません。
行政庁が確認したいのは、「事務所にいるのと同じ水準で、専任として機能するか」です。
東京都資料では、リモートワークの場合、次が求められる旨が示されています。
・事務所に常勤している場合と同様に業務が行える環境であること
・社会通念上、事務所に通勤可能な距離であること(遠隔地居住は難しい方向)
・テレワーク実施状況が客観的に分かる資料(勤怠管理、メール等の記録など)を整備すること。
【専従性とは】
専任宅建士の「専任性」は、常勤性と専従性の2つを満たす必要があります。
東京都の手引の差替資料では、専従性を含めて
「①通常の勤務時間に常勤し、②専ら当該事務所に係る宅建業の業務に従事すること」
と整理しています。 つまり専従性は、勤務時間中に「名義だけ置いている」のではなく、その事務所の宅建業務を担う体制として機能していることを求める考え方です。国土交通省の「解釈・運用の考え方」でも、専任宅建士は「専ら当該事務所に係る宅地建物取引業の業務に従事する状態」とされています。
【原因②】事務所の独立性が足りない(間仕切り、入口動線、共有スペースの扱い)
宅建業の「事務所」は、単に机が置ける場所では足りません。行政庁は、次の観点で独立性を見ます。
- 宅建業者としての事務所が、他の部屋・他の事業者と明確に区分されている
- 不特定の来訪者が、宅建業の事務所として認識できる
- 宅建業務の打合せや書類保管が、継続的に行える
止まりやすいのは、次のパターンです。
- 自宅の一室だが、生活空間と区切りが弱い(簡易なカーテン程度など)
- シェアオフィスで、専用区画が曖昧、または共用部のみで事務所要件を満たしにくい
- 他業種の事務所と同居していて、入口動線・表示・区画の説明が不足している

行政庁は、図面(平面図)と写真で「どこから入り、どこが専用区画で、どこが共用か」を確認します。申請者は、区画の境界、入口表示、共用スペースの扱いを説明できないと、補正になりやすいです。
【原因③】固定電話や看板、応接設備など、写真要件を満たさない
多くの自治体では、事務所の実態確認として写真提出が求められます。
申請が止まる原因は「設備が無い」より、「写真の撮り方・見せ方が不足している」ことが多いです。
よくある不備は次のとおりです。
- 看板や商号表示が、写真で判別できない(小さい、反射、画角が悪い)
- 机・椅子・応接スペースなどが確認できない(撮影範囲が狭い)
- 固定電話の設置状況が分からない(番号表示が写っていない等)
- 事務機器や書類保管の状況が読み取れない
行政庁は「ここで継続的に宅建業務を行う」状態を写真で確認したいので、申請者は、必要な撮影箇所を手引に合わせて揃える必要があります。
【原因④】保証金・保証協会の選択が未整理で、開業スケジュールが立たない
免許が出ても、手続が完了するまで営業開始できない工程が残ります。代表的には、次のどちらかです。
- 営業保証金の供託
- 保証協会への加入(分担金の納付等)
申請段階でこの選択が曖昧だと、免許取得後に「次に何を、いつまでにするか」が決まりません。その結果、開業日が後ろ倒しになります。
特に、次の状況だと止まりやすいです。
- 資金の確保が未了で、供託・加入がいつできるか説明できない
- 加入条件や必要書類の準備をしておらず、手続に時間がかかる
- 事務所追加(支店予定)があるのに、費用や手続の整理ができていない
申請者は、免許取得後の工程まで含めてスケジュールを組んでおくと、開業遅延を減らせます。
【原因⑤】役員や政令使用人の整理が不十分で、追加資料が増える
法人申請では、代表者だけでなく、役員や政令使用人(支店長等)についても、欠格要件・略歴・住民票関係などの確認が入ります。ここが未整理だと、追加資料が増えます。
止まりやすい原因は次のとおりです。
- 役員の人数が多く、必要書類の収集が遅れる
- 役員の経歴・住所履歴などの整合が取れていない
- 政令使用人を置く予定なのに、対象者や配置が固まっていない
- 申請書の記載と添付資料の内容にズレがある
行政庁は「体制として適格か」を確認するため、人物関係の資料が揃わないと、補正(追加提出)が続きやすいです。
申請者が「提出後に整える」と考えると、補正が連鎖しやすくなります。
⑤失敗しない免許取得方法
「自分で申請する」場合の現実的な進め方
申請者は、次の順番で進める必要があります。
1)最初に都道府県の手引とチェックリストを読み、写真要件まで把握する
宅建業免許申請は、都道府県ごとに手引・様式・チェックリスト・写真の撮り方の運用が違います。
そのため、最初にやるべきことは「何を提出し、何を写真で示す必要があるか」を把握することです。
特に写真要件は、あとで取り直しになりやすいので先に確認します。たとえば、次のような点は自治体の手引に沿って揃える必要があります。
- どの角度の写真が必要か(入口、事務スペース、応接、書庫など)
- 看板や商号表示を「判別できる形」で写す必要があるか
- 固定電話や机、椅子、事務機器の確認が必要か
- 自宅・シェアオフィスの場合に追加の説明が必要か
ここを先に確認しておくと、「撮影したけれど要件を満たさない」「追加の写真が必要」といった補正の原因を減らせます。
2)次に事務所を確定し、平面図と写真の撮影計画を作る
次に行うのは、事務所を“決め切る”ことです。申請書は事務所の所在地が確定しないと作れませんし、行政庁が最も重視するのは「事務所の実態」です。
ここで重要なのは、ただ場所を決めるだけでなく、平面図(レイアウト図)と写真の撮影計画をセットで作ることです。
- 平面図で示す内容:入口、受付、執務スペース、応接スペース、書類保管場所、他室との区切り(独立性)
- 写真で示す内容:手引が求める撮影箇所を漏れなく撮る、看板や区画が分かる構図にする
「平面図は後で適当に描く」という進め方だと、写真との整合が取れず、説明不足で補正になりやすいです。最初から「平面図と写真が同じ事実を示す」状態に整えるのが狙いです。
3)次に専任宅建士の勤務実態を整理し、説明資料を準備する
事務所と並んで、申請で止まりやすいのが「専任の宅建士」です。
申請では、単に資格者がいるだけでは足りず、行政庁は次の点を確認します。
- 常勤性:その事務所の勤務時間にきちんと勤務できるか
- 専従性:勤務時間中に、その事務所の宅建業務に専念できるか
ここで申請者が準備すべきなのは「資格証の写し」だけではありません。たとえば、次のような資料・整理が必要になります。
- 雇用形態(社員、役員、代表者本人など)
- 勤務時間・勤務日・勤務地(テレワークがあるならその運用)
- 他の勤務先や他事業がある場合の整理(勤務時間が重ならない説明)
この「勤務実態の説明」が弱いと、行政庁は判断できず補正に入ります。後から整えるより、申請前に筋道を立てて説明できる形にしておく方が確実です。
4)最後に申請書を作り込む
申請書は最後に作り込みます。理由はシンプルで、申請書に書く内容は、1~3で固めた“実態”に依存するからです。
- 事務所が確定していないと、所在地・施設状況・写真の整合が取れません
- 専任宅建士の勤務実態が固まっていないと、専任性の説明で止まります
- 保証協会や保証金の選択が曖昧だと、免許後の手続が詰まり、開業が遅れます
申請書は、実態が固まった後に「事実を正確に落とし込む」作業です。先に申請書だけ作ると、内容の修正が連鎖して補正が増えやすくなります。
「途中でつまずいた→相談」が最も多い
申請者が相談に来るタイミングは、事務所写真の不適合、専任宅建士の専任性、保証金まわりの段取りで止まった時点が中心です。行政書士に相談すると、審査ポイントに合わせて「先に実態を整える」設計に修正できます。結果として、補正回数と開業延期リスクが下がります。
行政書士に相談した場合、単に申請書を作るのではなく、審査で見られるポイントに合わせて「先に実態を整える」方向に組み直せます。具体的には次のような修正です。
- 事務所:区画の独立性が伝わる平面図に直し、写真の撮影順・撮影角度を設計する
- 専任宅建士:常勤・専従の説明を「勤務実態」と「客観資料」で通る形に整理する
- 保証金:営業開始までの工程を逆算し、資金準備と手続の順序を固定する
この「順番の設計」ができると、行政庁から追加で求められる資料や修正が減りやすくなります。
⑥まとめ
宅建業免許申請は、申請書を作る作業ではなく、行政庁が確認できる形で「体制」を作る作業です。申請者は、専任宅建士、事務所、保証金(保証協会)の3点を先に固める必要があります。申請者が独力で進めて止まった場合は、早い段階で専門家へ切り替える判断が重要です。
当事務所は、宅建業免許申請の実務支援に加えて、開業後の資金計画(運転資金、借入、家計への影響)まで一体で相談を受けています。事業計画と生活設計を同時に整理したい場合は、早めにご相談ください。
※本稿は一般的な制度説明です。最終的な要件・提出先・必要書類は申請先自治体の最新手引で確認してください。


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