遺言書に書けること・書けないこと|トラブル回避の基本

まずはゴールを決めましょう
遺言は「私の財産と想いを、もめずに次世代へ渡す」ための設計図です。
まずは、相続人の関係・財産の棚卸し・誰に何をどの順で渡したいかというゴールを決めると、書けること・書けないことの判断がぶれなくなります。
用語ミニ解説
- 相続人:法律で決まる“遺産を承継する権利がある人”です(配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹などの順位)。
- 遺贈(いぞう):相続人以外(友人・団体など)へ財産を与えることです。
- 遺留分:配偶者や子などに法律が保証する最低取り分です。侵害すると請求が来る可能性があります。
最初にこの3つを押さえると、遺言の設計が格段に楽になります。
遺言で「書けること(効力のあること)」
遺言には“効力が出ること”と“想いを伝えるだけのこと”があり、ここを区別するほどトラブルが減ります。
財産の分け方に関する指定
- 相続分の指定:各相続人の取り分(〇%)を指定できます。
- 遺産分割方法の指定:Aには自宅、Bには預金というように現物で振り分けができます。
- 特定財産の遺贈:相続人以外(内縁のパートナー、NPO等)にも特定財産を渡せます。
- 遺産分割の禁止(最長5年):当面は分割をしないでほしいと指定できます。
以上は“誰に・何を・どう渡すか”を明確にする基本セットで、相続人間の読み違いを大きく減らします。
人・手続に関する指定
- 遺言執行者の指定:遺言の内容を実現する担当者を指名できます(専門職を指名することを推奨)。
- 未成年の子の後見人・後見監督人の指定:親なき後の監護・財産管理の体制を指示できます。
- 祭祀主宰者の指定:仏壇・墓地・祭具を承継する人を指定することができます。
誰が手続きを主導するかを決めておくことで、手続のスピードと安心感が上がります。
身分・親族関係に関する指定
- 認知:婚外子を法的に我が子として認めることができます。
- 相続人の廃除・取り消しの意思表示:著しい非行等がある場合に家庭裁判所へ申立てるよう求める形で記載できます(効力は裁判所の審判を経て確定)。
これらは法律効果が大きいため、文言の精度と証拠づけがポイントになります。
条件や負担の付加
- 負担付遺贈:財産を渡す代わりに、一定の行為(ペットの飼育費負担等)を求めることができます。
- 停止条件・解除条件:例えば「大学卒業を条件に渡す」等の条件をつけられます(過度・違法・不可能な条件は無効)。
条件の設計は複雑になりがちなので、実現可能性・監督方法までセットで考えるのが安全です。
遺言で「書けないこと/書いても効力が乏しいこと」
「書いたのに通用しない」代表例を先に知っておくと、回り道を避けられます。
法律に反して効力が認められないもの
- 遺留分を一方的にゼロにする内容:受け取る側の同意や法的手続なく遺留分を奪うことはできません。
- 相続放棄を強制する内容:相続放棄は各相続人が家庭裁判所に申述して行う手続で、遺言で強制はできません。
- 婚姻・離婚・職業選択等の人格権の制限:公序良俗に反し無効になりやすいです。
法の強行規定にぶつかるものは、書いても期待する効果は生じません。
第三者の権利を侵害する指定
- 既に担保設定された不動産を自由に処分すること:抵当権者などの権利が優先しますので、無効になる可能性があります。
- 共有者の同意を要する利用や処分:共有関係は遺言だけで一方的に解決できません。
権利関係が絡む財産は“登記・契約の裏取り”を前提に文案を作るのが基本です。
実務的に別契約で整えるべき領域
- 死後事務の細かな実行(葬儀・納骨・各種解約):遺言だけでは誰に支払うか等が曖昧になりがちで、死後事務委任契約での補強が有効です。
- ペットの飼育・資金管理:負担付遺贈+見守り契約(信託・任意後見等)で具体化するのが安全です。
遺言は“方向性”を示し、実行の細部は契約で担保するという役割分担が現実的です。
「付言事項」にできること・できないこと
付言事項は、家族へのメッセージや分け方の理由を書く欄で、法的強制力は原則なしです。
ただし、遺留分請求の抑制や、遺産分割協議の合意形成を促す効果が期待できます。
付言に向く内容
- 分け方の理由・背景:介護や事業承継の事情などを丁寧に記します。
- 家族への感謝・将来像:残された人が判断に迷わないよう、価値観を言葉にします。
- 連絡先・手続の優先順位:執行者、顧問先、口座整理の順番などの“道しるべ”です。
付言は“争いを減らす最後の一押し”として、短くても必ず入れる価値があります。
遺言方式の選び方(自筆・公正・秘密)
書ける/書けない以前に、方式のミスは無効リスクに直結します。実務では公正証書遺言が最有力です。
自筆証書遺言のポイント
- 全文・日付・氏名を自書し、押印します(財産目録は自書不要ですが署名押印が必要)。
- 訂正方法にもルールがあり、外すと無効の恐れがあります。
- 法務局の遺言書保管制度を使うと、家庭裁判所の検認が不要になり、紛失・改ざんのリスクを下げられます。
自筆は費用が抑えられる一方で、文言・添付・訂正でつまずくケースが目立ちます。
公正証書遺言のポイント
- 公証人が関与し、原本を公証役場で保管します。
- 方式ミスのリスクが低く、即実行しやすいのが最大の利点です。
- 証人2名が必要で、利益相反がある人はなれません(推定相続人等は不可)。
費用負担はありますが、「確実に残す」優先なら第一候補です。
秘密証書遺言の位置づけ
- 内容を秘密にできる反面、方式が複雑で普及していません。
- 実務上は自筆+保管制度、公正証書のいずれかを選ぶのが安全です。
秘密性より実行確実性を重視するのがトラブル防止の王道です。
遺留分と特別受益・寄与分(もめやすい3項目)
分け方を決める前に、この三つの“調整弁”を確認すると、遺言の説得力が上がります。
遺留分
- 配偶者・子(直系尊属のみ相続の場合は親)に保障された最低取り分です。
- 侵害すると金銭請求(遺留分侵害額請求)が来る可能性があります。
遺留分を踏まえた設計にするか、請求が来ても払える資金計画をつけるかが現実的対応です。
特別受益
- 生前贈与や結婚資金など“先渡し”の利益は、相続時に持ち戻してバランスを取ります。
- 重要なのは立証で、証拠の残し方(贈与契約書、振込記録等)が将来効いてきます。
「何を、いつ、いくら」をメモ・資料で残すだけでも紛争率が下がります。
寄与分
- 無償看護や事業手伝い等で、相続財産の維持・増加に寄与した人の上乗せ分です。
- これも証拠主義で、日誌・レシート・写真・第三者証言が説得力を持ちます。
遺言で“感謝のメッセージ+一定の配慮”を書いておくと、寄与分主張との整合が取りやすくなります。
遺言書の作成でよくある落とし穴
事前に知っておくと避けやすい典型例を、短く押さえます。
不動産は「特定・測量・担保」を三点セットで
- 所在・地番・家屋番号の特定が甘いと相続の実行段階で止まってしまいます。
- 担保(抵当権)や共有持分があると、指定どおりに動けないことがあります。
- 境界不明・未登記建物は、遺言ではなく生前に整備するのが王道です。
不動産は“動かせる”状態となることを優先して設計することが重要です。
事業承継は「株式の集約」と「金庫番の継続」を同時に
- 株式・持分の集中ができていないと議決権が割れて意思決定が止まってしまいます。
- 代表口座・印鑑・契約IDは、執行時に動けるよう管理台帳化をしておくことが必須です。
数字と権限の動線を描いたうえで、遺言+別契約で固めるのがコツです。
銀行・証券・暗号資産は「所在とアクセス」を先に見える化
- どこに、いくら、どうやってアクセスするかを書かないと、探すコストが膨らみます。
- パスワードと二段階認証は、遺言ではなく「デジタル資産台帳+保管方法」で管理します。
モノより情報が詰まる時代なので、台帳づくりが最大の“相続対策”です。
- 公正証書遺言:公証人が作成し原本を保管します。方式ミスが少なく実行が容易です。
- 遺言執行者:遺言内容を実現する人です。専門職に依頼するとスムーズです。
用語は難しそうですが、実務は“誰が・何を・いつまでに”に落とし込みます。
まとめ(迷ったらご相談ください)
遺言に書けることは「分け方・人事・条件の設計」で、書けないことは「強行法規や第三者の権利に反する要求」です。さらに、付言事項で理由と想いを丁寧に言語化すると、残された人の合意形成が一気に進みます。
方式は公正証書が最も安全、自筆は保管制度の併用が必須レベルです。
当事務所では、財産棚卸しから文案作成、付言の言語化、死後事務・信託・家族信託との組み合わせまで、“もめない設計図”づくりをワンストップでお手伝いします。状況とご希望をお聞かせいただければ、最短の方式・条項案・費用感までその場で整理します。まずはお気軽にご相談ください。
(注:本コラムは一般向けの最新知見に基づく解説です。個別の適用・条文運用・税務は事情により異なります。大枠を掴んだうえで、具体の文言は専門家と詰めることをおすすめします。)
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