「子どもがアメリカに住んでいる」
「日本の不動産と海外の預金・証券口座がある」
「海外在住の相続人がいる場合、遺言書に何を書けばよいか分からない」
最近は、家族の一部が海外で生活している相続相談も珍しくありません。
特にアメリカ在住の相続人がいる場合、日本の相続手続だけでなく、米国側の税務・報告義務、国外財産の所在、遺言書の方式、遺言執行者の指定などを早めに整理しておくことが重要です。
また、一定額を超える国外財産を持つ方には「国外財産調書」の提出が関係することがあります。国外財産調書は遺言書そのものではありませんが、海外財産を把握するうえで、相続準備にも関係しやすい制度です。
このコラムでは、海外在住相続人がいる家庭に向けて、国外財産調書、日米課税、遺言書作成時の注意点を整理します。
なお、相続税・米国税務の個別判断は税理士や米国税務の専門家の分野です。行政書士としては、遺言書の原案作成、相続関係の整理、必要書類の確認、専門家との連携を前提にサポートする形になります。
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海外在住相続人がいる相続は、早めの準備が重要です
相続人の一人が海外に住んでいる場合、通常の相続よりも手続が複雑になりやすい傾向があります。
たとえば、次のような問題が出てきます。
・海外在住の相続人と連絡が取りにくい
・署名証明や在留証明など、日本国内と異なる書類が必要になる
・遺産分割協議書を郵送でやり取りするため時間がかかる
・日本と海外の税務申告を分けて考える必要がある
・海外の銀行口座や証券口座の情報が家族に伝わっていない
・米国在住の相続人にIRSへの報告義務が発生する可能性がある
日本の相続税の申告期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。相続人が海外にいる場合でも、この期限が当然に長くなるわけではありません。国税庁も、相続税の申告と納税は原則10か月以内に行うと案内しています。
そのため、海外在住相続人がいる家庭では、「相続が起きてから考える」のではなく、生前のうちに遺言書や財産一覧を整えておくことが大切です。
国外財産調書とは
国外財産調書とは、一定額を超える国外財産を持つ方が、その国外財産の内容を税務署へ提出する制度です。
国税庁によると、国外財産調書の提出が必要となるのは、その年の12月31日において、価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する居住者の方です。ただし、非永住者は対象から除かれます。また、提出期限はその年の翌年6月30日までとされています。
ここで注意したいのは、国外財産調書は「海外在住の相続人がいるから必ず提出するもの」ではないという点です。
提出義務の有無は、主に次のような点で判断されます。
・提出者本人が日本の居住者に当たるか
・その年の12月31日時点で国外財産を持っているか
・国外財産の価額合計が5,000万円を超えるか
・非永住者に当たらないか
つまり、たとえば静岡市・藤枝市・焼津市に住む親が、米国の預金、米国株式、海外不動産などを一定額以上持っている場合には、国外財産調書の提出が問題になることがあります。
一方、相続人である子どもがアメリカに住んでいるというだけで、親に国外財産調書の提出義務が生じるわけではありません。
国外財産調書は遺言書作成にも関係します
国外財産調書は税務上の制度ですが、遺言書作成の実務にも関係します。
なぜなら、遺言書を作るときには、財産の所在と内容を正確に把握する必要があるからです。
国外財産がある場合、家族がその存在を知らなければ、相続開始後に次のような問題が起こりやすくなります。
・海外口座の存在に気づかない
・米国株式や海外ETFの所在が分からない
・海外不動産の名義や所在地が分からない
・ログイン情報や金融機関名が不明で調査に時間がかかる
・日本側の相続税申告に必要な資料がそろわない
・米国側の申告・報告に必要な情報が不足する
国外財産調書を提出している方であれば、少なくとも国外財産の一覧を作成する機会があります。
ただし、国外財産調書そのものを家族がすぐ確認できるとは限りません。遺言書とは別に、財産目録や連絡先一覧を整理しておくことが重要です。
海外在住相続人がいる場合の日本の相続税
海外在住の相続人がいる場合、日本の相続税がどこまでかかるかは、相続人の住所、国籍、被相続人の住所・国籍、過去の日本居住歴などによって判断されます。
国税庁は、外国に居住していて日本に住所がない人が相続などで財産を取得した場合、原則として日本国内にある財産が相続税の課税対象になると説明しています。ただし、日本国籍や過去10年以内の日本居住歴、被相続人の状況などによっては、日本国外にある財産も課税対象になる場合があります。
また、日本国内に住所がない人が相続税の申告をする必要がある場合には、納税管理人を定めて申告・納税することが案内されています。
ここは非常に重要なポイントです。
「相続人が海外に住んでいるから、日本の相続税は関係ない」とは限りません。
反対に、「日本人だから必ずすべての海外財産に日本の相続税がかかる」と単純に決まるわけでもありません。
実際には、次のような情報を整理して税理士に確認する必要があります。
・被相続人の住所
・被相続人の国籍
・相続人の住所
・相続人の国籍
・相続人の過去10年以内の日本居住歴
・相続財産の所在
・国外財産の種類
・生前贈与の有無
・相続時精算課税の有無
遺言書を作成する段階では、税額計算まで行う必要はありませんが、「税務上の確認が必要な家族構成かどうか」は早めに把握しておくべきです。
日米課税で特に注意したいポイント
アメリカが関係する相続では、日本と米国の税制の違いに注意が必要です。
日本の相続税は、相続や遺贈により財産を取得した人に着目して課税される仕組みです。一方、米国の連邦遺産税は、亡くなった方の遺産に着目する制度です。
さらに、米国では、亡くなった方が米国市民・米国居住者かどうか、または米国所在財産を持つ非居住外国人かどうかによって扱いが変わります。
IRSは、米国市民ではない非居住者が亡くなった場合でも、死亡時点の米国所在資産の価額が6万ドルを超える場合には、Form 706-NAの提出が必要になると案内しています。
たとえば、日本在住の方が米国株式や米国不動産などを保有している場合、米国側の遺産税や申告義務が問題になる可能性があります。
ただし、日本と米国の間には、遺産、相続、贈与に対する租税について二重課税を避けるための条約があります。外務省も「遺産、相続及び贈与に対する租税に関して二重課税を回避し、脱税を防止するための日本国とアメリカ合衆国との間の条約」を公表しています。
この条約は、いわゆる日米所得税条約とは別に考える必要があります。日米間の相続・贈与に関する判断では、相続税・遺産税に詳しい税理士や米国税務の専門家への確認が欠かせません。
米国在住の相続人がいる場合の報告義務
相続人がアメリカに住んでいる場合、相続人側にも米国の報告義務が発生することがあります。
たとえば、米国の税務上の「U.S. person」に該当する人が、外国人や外国の遺産から一定額を超える贈与・遺贈を受けた場合、Form 3520による報告が必要になることがあります。
IRSは、非居住外国人または外国の遺産から受けた贈与・遺贈について、年間合計が10万ドルを超える場合には報告が必要になると案内しています。
この点も、誤解が多いところです。
日本側では相続税の問題として処理していても、米国在住の相続人側では「受け取った海外遺産の報告」が必要になる場合があります。
遺言書を作る側としては、米国の申告書を作ることまではできません。
しかし、相続人が米国在住であることを前提に、次の情報を整理しておくことは重要です。
・誰がどの財産を取得するのか
・取得する財産の概算額
・財産の所在国
・金融機関名
・不動産の所在地
・相続開始時に必要となる証明書類
・米国税務専門家へ相談すべき可能性
相続人にとっては、「何を、いつ、いくら受け取ったのか」が分からないと、米国側の報告判断ができません。
遺言書を作るときに整理すべき財産
海外在住相続人がいる家庭では、遺言書の前提として財産一覧を作ることが重要です。
特に、次の財産は漏れやすいため注意しましょう。
- 日本国内の不動産
- 日本国内の預貯金
- 証券口座
- 生命保険
- 自社株式
- 海外の銀行口座
- 海外の証券口座
- 米国株式、米国ETF
- 海外不動産
- 海外法人の持分
- 暗号資産
- 外貨建て保険
- 海外年金、退職口座に類する資産
国外財産の評価は、単純に現地の評価額をそのまま使えばよいとは限りません。
国税庁は、国外にある財産の価額についても、原則として財産評価基本通達に定める評価方法により評価することに留意するとしています。また、国外で相続税に相当する税が課された場合の評価額についても、その外国税の計算基礎となった価額が常に日本の相続税法上の時価として相当とは限らないと説明しています。
遺言書を作る段階では、厳密な相続税評価まで確定できないこともあります。
それでも、どの財産がどの国にあるか、どの専門家に確認すべきかを整理しておくことで、相続発生後の混乱を大きく減らせます。
遺言書では「誰に何を渡すか」を具体的に書く
海外在住相続人がいる場合、遺言書では「誰に何を渡すか」をできるだけ具体的に書くことが大切です。
たとえば、次のような曖昧な書き方は、相続開始後に争いや確認作業が増える原因になります。
・財産は子どもたちで話し合って分ける
・海外資産は長男に任せる
・預金は家族で適当に分ける
・不動産は必要に応じて処分する
海外在住の相続人がいる場合、遺産分割協議を行うだけでも時間がかかります。署名証明、在留証明、翻訳、郵送、時差、金融機関対応などが重なると、日本国内の相続人だけの場合よりも手続が長引きやすくなります。
そのため、遺言書では次のように整理しておくことが望ましいです。
・日本の不動産は誰が取得するか
・海外財産は誰が取得するか
・預貯金はどの割合で分けるか
・換価して分ける財産があるか
・遺言執行者を誰にするか
・海外在住相続人への連絡方法
・税理士、行政書士、司法書士などの連絡先
特に、海外在住相続人がいる場合は、遺言執行者の指定が重要です。遺言執行者がいないと、相続人全員での手続や書類収集が必要になり、海外在住相続人の負担が大きくなることがあります。
公正証書遺言を検討したいケース
海外在住相続人がいる家庭では、公正証書遺言を検討する価値があります。
公正証書遺言は、公証役場で公証人が関与して作成する遺言です。形式面での不備が起こりにくく、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんのリスクを抑えやすいという特徴があります。
一方、自筆証書遺言は、自分で作成できる手軽さがありますが、方式不備や内容の曖昧さが問題になることがあります。
家庭裁判所は、遺言書の保管者や発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を請求しなければならないと案内しています。ただし、公正証書遺言や、法務局に保管された自筆証書遺言に関して交付される遺言書情報証明書は検認不要とされています。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する方法もあります。法務省は、自筆証書遺言に係る遺言書を法務局で保管する制度について案内しています。
ただし、海外在住相続人がいる場合や、国外財産・日米課税が関係する場合は、単に保管制度を使えば十分とは限りません。
内容の明確さ、遺言執行者の指定、税務上の確認、海外財産の扱いまで含めて検討する必要があります。
国際相続では準拠法にも注意が必要です
国際相続では、「どこの国の法律で相続を考えるのか」も問題になります。
日本の法の適用に関する通則法では、相続は被相続人の本国法によると定められています。つまり、被相続人が日本国籍であれば、日本法が相続の準拠法となるのが基本です。
一方、遺言の方式については、別途「遺言の方式の準拠法に関する法律」があります。この法律では、行為地法、遺言者の国籍国の法律、住所地法、常居所地法、不動産所在地法など、一定の法律に適合する場合に、方式に関して有効とされる枠組みが設けられています。
ただし、これは「どの国の方式なら形式的に有効か」という問題です。
実際にその遺言書で日本の銀行、不動産、証券会社、法務局、海外金融機関がスムーズに手続してくれるかは別問題です。
海外財産がある場合には、国ごとに別の遺言書を作るべきか、日本の遺言書にまとめるべきか、現地専門家の確認が必要になることがあります。
遺言書作成時のチェックリスト
海外在住相続人がいる家庭では、遺言書を作る前に次の点を整理しておくとスムーズです。
- 相続人全員の氏名、住所、国籍
- 海外在住相続人の居住国
- 海外在住相続人の日本国籍の有無
- 過去10年以内の日本居住歴
- 日本国内の財産一覧
- 国外財産の一覧
- 国外財産調書の提出状況
- 米国所在財産の有無
- 米国在住相続人の有無
- 生前贈与の有無
- 相続時精算課税の利用有無
- 遺言執行者の候補者
- 税理士へ確認すべき事項
- 司法書士へ確認すべき登記の有無
- 現地弁護士、米国税務専門家へ確認すべき事項
このチェックリストは、税額を計算するためだけのものではありません。
遺言書の内容を具体化し、相続開始後に家族が困らないようにするための準備です。
よくある質問
海外在住の相続人がいるだけで国外財産調書は必要ですか?
いいえ。海外在住相続人がいること自体で、国外財産調書の提出義務が生じるわけではありません。国外財産調書は、一定の居住者が、その年の12月31日時点で5,000万円を超える国外財産を持つ場合に提出が問題となる制度です。
アメリカ在住の子どもに相続させると、日本の相続税はかかりませんか?
必ずしもそうではありません。海外在住で日本に住所がない相続人であっても、財産の所在、国籍、過去の日本居住歴、被相続人の状況によって、日本の相続税の課税範囲が変わります。個別判断は税理士に確認する必要があります。
米国在住の相続人には、米国側の申告も必要ですか?
必要になる場合があります。たとえば、米国税務上のU.S. personが、外国人または外国の遺産から一定額を超える贈与・遺贈を受けた場合、Form 3520の報告が問題になることがあります。米国側の判断は、米国税務の専門家に確認することをおすすめします。
日本在住の親が米国株を持っている場合、米国の遺産税は関係しますか?
関係する可能性があります。IRSは、米国市民ではない非居住者が亡くなった場合でも、米国所在資産の価額が6万ドルを超える場合には、Form 706-NAの提出が必要になると案内しています。実際の課税や条約適用は、日米相続税条約を含めて専門家に確認する必要があります。
海外財産がある場合、日本の遺言書だけで十分ですか?
財産の所在国や金融機関の実務によります。日本の遺言書で対応できる場合もありますが、海外不動産や海外金融機関が関係する場合は、現地法に基づく遺言書や手続が必要になることがあります。日本側の遺言書作成とあわせて、現地専門家への確認が重要です。
行政書士に相談できるのはどの部分ですか?
行政書士は、遺言書原案の作成、相続人関係の整理、財産一覧の作成サポート、必要書類の確認、遺言執行者指定の検討、各専門家との連携準備などをサポートできます。税額計算や税務申告は税理士、登記は司法書士、紛争性のある案件は弁護士の分野になります。
行政書士に相談しやすいケース
海外在住相続人がいる相続では、「何から確認すればよいか分からない」という段階で相談することが大切です。
特に、次のようなケースでは早めの準備をおすすめします。
・子どもがアメリカに住んでいる
・相続人の一人が海外在住である
・日本と海外の両方に財産がある
・米国株式や米国不動産を持っている
・国外財産調書を提出している、または提出対象かもしれない
・海外財産の一覧を家族に残していない
・遺産分割協議を避けるために遺言書を作りたい
・遺言執行者を指定しておきたい
・税理士や司法書士へ相談する前に状況を整理したい
アクシスサポート行政書士事務所では、静岡市・藤枝市・焼津市を中心に、相続・遺言に関するご相談をお受けしています。
海外在住相続人がいる場合や国外財産がある場合は、行政書士だけで完結できないこともあります。必要に応じて、税理士、司法書士、弁護士、米国税務の専門家との連携を前提に、まずは状況整理から進めることが大切です。
初回相談は無料です。
「まだ財産がまとまっていない」
「国外財産調書が関係するか分からない」
「アメリカ在住の子どもに何を伝えておけばよいか分からない」
という段階でもご相談いただけます。
まとめ
海外在住相続人がいる家庭では、遺言書を作る前に、相続人の住所・国籍・居住歴、国内財産、国外財産、日米課税、国外財産調書の提出状況を整理しておくことが重要です。
国外財産調書は、海外在住相続人がいるから必ず必要になるものではありません。ただし、日本在住の方が5,000万円を超える国外財産を持っている場合には、提出義務が問題になることがあります。
また、アメリカが関係する相続では、日本の相続税だけでなく、米国の遺産税、Form 706-NA、Form 3520、日米相続税条約などの確認が必要になる場合があります。
遺言書では、「誰に何を渡すか」を具体的に書き、遺言執行者を指定し、財産一覧を整理しておくことが大切です。
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